ヨゼフ・シゲティ バッハ『無伴奏バイオリン・ソナタとパルティータ』
録音1959~60年
JOSEPH SZIGETI  BACH『6 SONATAS & PARTITAS』 Vanguard BG627/9

初めて耳にしたとき、これは大変聴きやすい演奏だと感じ、
安らぐような優しさと慈しみを覚えました。
この曲はこういう音楽なんだと、自分なりに納得できたような気がしました。
高い垣根だと思っていたのがさにあらず、低い垣根の向こうに美しい光景が
広がっていたことに対する喜びを感じました。

音色と響きに虚飾や潤色といったものが聴かれない、スッキリとした演奏です。
それはシゲティがこの曲をどう表現したよいかを長年思考模索し、
修練を重ねてきた音作りのたまものだと思います。
その結果、表現が技巧的なものから解放されて余裕があり、
それが聴きやすさになっているのだと思います。
深いものがシンプルにきこえるスマートな演奏です。
録音はシゲティが68歳の時です。

何であれ、よいもの、すぐれたものは数多くありますが、
自分の好みに合ったものに出会った時はうれしいものです。
それは自分の身に寄り添い愛着となり愛用になります。
僅かな音色の微妙な違い、その響きが好みの平衡に影響するようです。
そういう意味でこれは僕に合っていたのかもしれません。
以来、すっかり愛聴盤になりました。

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一つ気になったのは、古い録音をデジタル化したときの欠点で、
CDの音が硬くきついこと。
長時間聴いているとうるさく疲れます。
出来ればLPレコードで聴くようお勧めします。
上記の写真はオリジナルですが、イギリスの『CREMONA』盤は
復刻ながら音も良く、リーズナブルだと思います。

蛇足に。
クライスラーが残した唯一(僕の知るかぎり)のソナタ、
adagio in g minor  1926年録音。
ゆったりと余裕がある素敵な演奏で、
時を超え艶やかに響いてきます。