~この人の音で曲は音楽になる~ 

Bella  Davidovich は1928年7月16日生まれのアゼルバイジャン出身ユダヤ系ピヤニスト
1949年第4回ショパン国際コンクール優勝者 モスクワ音楽院首席卒業
1950年ヴァイオリニストの ユリアン・シトコヴェッキーと結婚
1956年シトコヴェッキー死去
 夫妻はロシア当局との折り合いが悪かったようでロシアでの活動の
詳細はわからないが、二人の実力に見合った録音は 多くない。
共演した録音は手元にある限りわずか2曲。
モーツァルトとタルティーニの ヴァイオリンとピアノのソナタのみ。
1978年米国 に亡命し1982年からジュリアード音楽院で教え現在に至る。

音声と節回し(音程とリズム)から音楽は生まれ、
精妙な音は人の心深くに届く。
演奏される一音一音は感情(喜怒哀楽 )や
美意識(人格、精神)を表現する。
いってみれば音は演奏する人そのもの。
音は言葉のように嘘をつかない。
だから人は音楽を心から楽しむ。音そのものにとり憑かれる。
当たり前ですが曲というのは譜面にある通り機械的に演奏しては、
作曲者の内面までは表現できませんね。
曲にあった音色と響きを吹き込んで初めて血が通い魂が宿る。
言ってみれば音は譜面を行き交う精霊にならないと音楽にならないのです。
 
ダヴィドヴィッチを初めて聴いたのは1982年彼女が54歳の時に録音したショパン。
バラード4曲、即興曲4曲と 24の前奏曲が入った2枚組のCD。
滑らかな親しみある演奏で大変聴きやすい。
 角の取れた柔らかさは年齢もあるが彼女の特質と天賦の才による所が大きい。
そんな力を抜いた穏やかな演奏をするダヴィドヴィッチだが、
60年頃はもっと溌剌とした演奏をしていたようだ。
これを書く切っ掛けになったのは、1960年32歳に録音した
サン・サーンスのピアノ協奏曲2番ト短調を聴いたからだった。
初めて聴く曲だったが曲想と彼女のピアノがマッチしていて、
気負いのない演奏が気持ちよく耳に届き心に響いた。
技術的な切れ味と溌剌とした躍動感は若いから当然といえばそれまでだが、
それ以上に彼女の内面が放つ美質な音が聞こえてくる。
一言でいえば懐が深い、控え目だけど輝いている、地味だけど艶やかな音。
清々しい音は惚れ惚れと身にしみてじっと聴き入る。 
聞き飽きることのない音色で演奏する60年頃の録音をもっともっと、
CDではなくレコードで聴いてみたくなった。