ここで突然ですが、SPレコードについて少し。
歌ならカルーソー、ヴァイオリンはクライスラー、ピアノではコルトー、
さらに代表的な往年の大演奏家は何人もいますが、皆その録音はSPレコードです。
1900年頃から25年ぐらいまでの吹き込みは電気を使っていません。
カルーソーは全てラッパ吹き込みで、まさに骨董レコードです。
ところでクライスラーは1875年生まれなので、電気吹き込みは50を過ぎてからです。
(カルーソーは1873年生まれ、コルトーは1877年生まれ)
電気録音は断然ハイファイになりますが、か細い音に耳を傾けると音楽性はラッパ式が勝ります。
そこが不出世の演奏家たる所以で、大演奏家の天分の閃きを感じ取れます。
音が悪いのに音楽性が優れているなどと、音楽の骨董趣味だと言われそうですが、
絵画など芸術一般について優れた作品は、現代よりずっと前に多くあります。
ただ音はいい状態で録音される技術が未発達だったことで大きなハンディがあるます。
サッチモは言っています。1900年代初頭、ニューオーリンズで聴いた本物の音楽が自分を育てたと。
こうした本物の音楽を演奏した不出世の大演奏家に関する古い逸話や証言はいくらでもあります。
やっと100年前からしか記録されなかった音楽の歴史。
もしモーツァルトやベートーヴェンのピアノが聴けたら、
その奥から時代を超えた音楽そのものを感じとれることでしょう。
今残る最古期の録音を聴いていると、そんな気がしてきます。
偉大な音楽家の演奏を記録したSPレコードは音楽という芸術の宝庫だと思います。
たとえ原盤を蓄音機で聞かずとも、LPレコードやCDの複刻で、
そのスピリットは十分伝わってきます。
それにスクラッチノイズの少ない盤を蓄音機で聴くのは簡単ではありません。
時代の音は原盤と蓄音機でしか本物の音にならないのは確かですが、
原音再生にこだわって、SPレコードの豊かな音楽の森を聴きのがしてはなりません。
それはあまりにもモッタイナイ!