二夜連続のコンサート当日は、
強い寒のもどりで心配だった雪が降らずほっとしましたが、
冷え込んだ夜空に星が光って三月とは思えないような寒さでした。

40名の聴き手の耳と目線を正面間近に受けながらの演奏は、
狭い室内をことさら小さく感じさせて、
さぞかし緊張した時間だったとことと思います。
しかも、じっと静けさを保って一挙一動を見つめられ
聴かれているとあっては、さすが藤井さんも演奏の合間に
静かなことに感謝しながらも、張った空気を和らげるような
話を入れて笑いを誘っていました。
その話しぶりには、5年というドイツでの修行で培った
人間としての成長ぶりが表れていました。

どんな音楽ジャンルにかかわらず、いつも音は演奏家の魂だと、
そうでなくては音楽は聴き手の心にとどかないのではないか。
と、そんなふうに思うとも思わずしながら、その善し悪しを
自分に合わせて聴いています。

藤井さんのオーボエを聴き始めて何年になるでしょうか。
そして何回聴いてきたことでしょうか。
その都度、藤井さんはいい意味で変化してきたように思います。
そして、その変化が成長という形としてはっきりと示されたのは
今回が初めてのようにぼくには感じられました。
それは身体という器から不足のない安定した音が出てきて、
整った心技体の初形が現れたといってもいいかもしれません。
ちょっと大げさに言えば、演奏家藤井貴宏が誕生した場に
居合わせたとような心持ちがしました。
数多の才能がひしめく世界で一人前になるのは大変でしょうが、
そこを突き抜けベルリンフィルに入ってもらいたい。
今後の活躍を心から期待して、次回を楽しみにしたいと思います。
2,3年後また来てくれるとうれしいですね。

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