人生には時に思いがけない出会いがあります。
人生の友、師や伴侶といった一生事から、
ふと訪れた様々な場面でのちょっとした感動まで、
それらは忘れていても、心の金庫に貯まっていて、
知らず知らずに人生を豊かにしているはずです。

音楽を聴いてふと訪れた「良いなあ」という感動、
そんな小さな経験の繰り返しも人生を楽しいものにしてくれます。

ということで、今日のレコードは、
先の真空管アンプとフラワーボックスで聴いた中から、
1930年代前後のSP復刻CD、その中の一曲を選びました。

自分にとって素晴らしい演奏だと思うのは、
出始めの一、二音で決まり、鳴りだした瞬間に耳を奪われるものです。

それは、開けた箱から宝石のような音が出てきて調べを奏で始めた。

ハロルド・バウアーの「月の光」を聴いていると、
湖面にきらめく光の揺りかごに乗せられ、
何時しか、湖上を漂っているかのような気持ちになります。
かって、ドビュッシーの「月の光」を聴いて、
このような感慨を持ったことはありません。
夜の静寂に目を閉じ、月の光を想像して聴くのもいいですよ。

そのように感じられたのは、
ペダリングの妙技から引き出される音が、
どこまでも優しく柔らかく、歌うような息の長い旋律の抒情に、
自ずと引き込まれてしまうからではないでしょうか。

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ハロルド・バウアーの紹介記事です。
多くのピアニストの中にあります。
http://salondesocrates.com/piano.html

これを書いてから、「あらえびす」さんはバウアーをどう評しているか気になって、
「名曲決定盤」をあたったところ、
「私の好きなピアニストの一人だ。こんなに地味で、
こんなに奥行きの深い演奏家は少ない。
この演奏の色調はサビであり、その情緒はモノノアワレに似たものである。」
とあり、肯きました。