音楽は一音から始まる。
それを強く印象付けるベートーヴェンの「運命」の出だしは、
最後まで全体を支配するほどつよいインパクトを持っています。
これを最も古いアルツゥール・ニキシュによる1913年の録音で聴いてみました。
ディスクは二つあり、一つはLPに復刻されたロシアのメロディア盤。
もう一つは、GHA復刻CD盤。
LPはノイズが多く、音の明瞭さを欠きまが演奏は前に迫り出します。
CDはノイズが少なく、その分明瞭になりますが演奏は後方に退きます。
どちらが良いと感じるか、どちらも良くないと感じるか、
歴史的な骨董レコードに興味のない人は、どちらも聴かないと思います。
僕がそんなレコードを聴くのは、「何でも聴いてみたい」好奇心と興味からで、
面白いかそうでないかは「聴いてみないと分からない」と思うからです。
聴いてみて、このレコードの面白さを感じたのはLPレコードの方でした。
その音は運命が怒涛のように押し寄せる圧倒的な力強さを感じさせます。
それはどうもLPの音圧が不明瞭さを負としないで生々しく迫るので、
音楽を表現する演奏者の魂が聴き手に届けられているような気がします。
どういうことかというと、ノイズの中に音楽の魂が隠れ秘そんでいて、
CDの音は、ノイズカットと共に魂が訴える生々しさが消えてしまったのではないか、
と物理的に根拠のない思案をして、自分なりに納得をしています。

蛇足ながら、僕は理想の再生をめざして装置の改善は行っていません。
同じディスクでも装置が違えば、再生される音楽の印象が変わります。
その変わりように真の再生という視点は持ち込みません。
今ある装置で限界がある中で、音楽の本質を考え感じ聞いています。










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